皿に乗ってくるのは、手のひらに収まるほどの小さな鳥です。二羽、あるいは三羽。ナイフとフォークで格闘していると、隣の席のスペイン人が指でつまんで齧り始める。それが正解だと気づくまで、少し時間がかかります。

コドルニス(Codorniz)とは、スペイン語でウズラのこと。スペインでは狩猟鳥の代表格であり、いまでは飼育もののほうが多く出回りますが、秋の狩猟期には野生のものも食卓に上がります。バルでは串に刺して、レストランでは丸ごと焼いて供される、小さいけれど確かなごちそうです。

なぜ丸ごと焼くのか。どう火を入れるのか。そして、酢に漬ける食べ方はどこから来たのか。順に辿ります。

炭火で焼かれる小さめの鳥肉

コドルニスとは

一羽の重さは、およそ150グラム前後。骨を除けばもっと少ない。

肉の色は、鶏よりも濃く、よりは淡い。あいだにある色です。味も同じで、鶏のような親しみやすさと、野鳥らしい香りの両方を持っています。脂は皮の下に薄く付く程度で、身そのものはかなり締まっています。

小さいということは、火が通るのが速いということ。同時に、乾くのも速いということです。数十秒の差が、しっとりとぱさつきを分ける。焼き加減を見極める緊張感は、大きな肉のそれとは種類が違います。

そしてもうひとつ。小さいから、骨から離して食べるのが難しい。だからスペインでは、手で持って齧ります。ナイフを置いて指を使う。それを許す料理だからこそ、バルのカウンターにもよく似合うのです。

狩猟の鳥として

ウズラは渡り鳥です。春から夏にスペインの平原で繁殖し、秋にアフリカへ渡っていく。

その通り道と時期が、そのまま狩猟の暦になりました。内陸の穀倉地帯では、収穫後の畑にウズラが集まり、秋の狩猟解禁とともに人々が野に出る。秋のジビエの中で、鹿や猪のような大物の陰に隠れがちですが、量としてはむしろ身近な獲物でした。

野生のウズラは、飼育ものより身が締まり、香りも強い。餌にしていた野の草や種の香りが、そのまま肉に出ます。痩せた土地の食文化においては、こうした小さな獲物が貴重なたんぱく源であり、ときには祝いの一皿でもありました。

いまは飼育ものが主流で、季節を問わず手に入ります。それでも秋になると献立に増えるのは、季節で料理が変わるという感覚が残っているからでしょう。

焼き網の下で赤く熾った炭と炎

丸ごと焼くという選択

なぜ捌かずに、丸ごと焼くのか。理由は三つあります。

ひとつは、骨。小さな鳥の骨は、焼くと強い旨みを出します。身と一緒に加熱することで、内側から出汁が回る。切り分けてから焼くと、この効果が失われます。

ふたつめは、水分。丸のままなら、体の内側が蒸気で満たされ、身が乾きにくい。開いて焼くより、しっとり仕上がります。

みっつめは、皮。全面を熾火で炙ることで、薄い皮がパリッと縮み、薪の煙をまとう。この香りが野鳥の香りとよく合います。

焼き方は、強すぎない火で全面を転がしながら。中心まで火を通しつつ、胸肉が乾く手前で引き上げる。味付けは粗塩と、あればローズマリーやタイム程度。香辛料を効かせすぎると、繊細な香りが隠れてしまいます。串に刺して炭火のピンチョにする手もあります。

エスカベチェという別の顔

焼くだけではありません。スペインには「エスカベチェ」という調理法があります。

一度火を通した素材を、酢とオリーブオイル、香味野菜のマリネ液に漬け込む保存法。もとはアラブ由来の技術で、冷蔵設備のない時代に、狩った鳥や小魚を日持ちさせるために使われてきました。

ウズラのエスカベチェは、その代表格。骨まで柔らかくなり、酸味が肉に染みて、冷たいまま食べられる。夏場には冷たい料理としてよく登場します。同じ素材が、火のそばでは熱いごちそうに、酢の中では冷たい前菜になる。

ワインとの相性

小さく、香りは繊細。だから重すぎる赤は避けたいところです。

軽やかなガルナッチャや、樽をあまり効かせていないテンプラニーリョ。果実味が前に出て、タンニンが控えめなものが、野鳥の香りを消しません。よく冷やしたロサードも、串焼きなら十分に釣り合います。

エスカベチェにした場合は話が変わります。酢が入っているので、酸のしっかりした白を。リアス・バイシャスのような、キレのあるタイプが向きます。温度を低めに整えるのがこつです。

手で持って齧り、指を舐める。上品とは言いがたいけれど、これがいちばん旨い食べ方です。ほかの薪火料理の話は、コラム一覧からご覧ください。